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歯根端切除術における壊死セメント質

根尖病変と歯根端切除術における壊死セメント質について

●根尖部の壊死セメント質とは、慢性炎症や細菌感染により、歯根の先端(根尖)を覆うセメント質が死んでしまった状態である。
 根尖病変内で細菌の温床(汚染源)となって通常の根管治療では除去できず、根尖病変の再発や治癒不全を引き起こす主な原因となる。外科手術(歯根端切除術)で汚染されたセメント質を直接除去し、逆根管充填を行うことで歯の保存を目指す。 

壊死セメント質の主な病理組織学的特徴
壊死セメント質の診断において重要なポイントは、「細胞成分の消失」「石灰化構造の変化」である。

セメント細胞の消失:
セメント質陷窩(Lacunae)の中に本来存在するはずのセメント細胞(Cementocytes)が消失し、空隙(空の陷窩)のみが目立つようになる。

  • 表面の不規則な吸収:
    セメント質表面が平滑ではなく、破歯細胞や細菌の酸などによって虫食い状(Resorption bays)に吸収されている像が見られる。

  • 細菌の侵入:
    セメント質表面や、時には深層の象牙細管にまで細菌塊(バイオフィルム)が強固に付着、あるいは迷入しているのが観察される。

  • 変性と着色:
    組織標本(H-E染色)では、健常なセメント質に比べて染まりが悪くなったり(染色性の低下)、逆に慢性的な炎症産物により変色して見えることがある。

  • 線維構造の断裂:
    歯根膜のシャーピー線維(Sharpey's fibers)が変性・消失しており、歯周組織との結合機能が失われている。

  • 臨床的意義との関連
    病理学的に「壊死」しているということは、その部位が感染の温床になっていることを意味する。

筆者:この根尖部の壊死セメント質の項目は私の30年前からの独自の持論であり、難治性根尖病変の原因解明や歯根端切除術の成功率を高める上で非常に重要であると言ってきた。しかし歯内療法学として議論されず教科書に記載もない。いずれ本質が理解され正論として当たり前に教科書に載ると思う。

 誰も論じてないためここに症例を供覧しいかに重要なことであるか述べてみたい。「歯根端切除術と壊死セメント質」で検索すればこのHPがトップにあり、このHPしか検索されないからである。根尖部の壊死セメント質を知らずして根尖病変の治療(根管治療や歯根端切除術)を論じることはできないと思っている。2026.1/20.kasazaki 

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<難治性根尖病変の原因となる壊死セメント質>
難治性の根尖病変の治療には、根尖部の壊死セメント質の知識が必要である。画像診断できること。除去しなければ治らない症例だと診断できること。根管治療では治癒しないことを知ること。歯根端切除術で除去できること。
 根尖病変に対して適切な根管治療を続けても治らない場合、その原因は根管でなく根尖部の壊死セメント質のことがある。このことを知っておかないと永遠と無意味な根管治療をすることになったり、理由なき抜歯になって患者トラブルになりかねない。この状態は、根管治療が難治化する主因となり、治療には歯根端切除術などの外科的な除去が必要となる。

 根尖病変の治療法は根管治療であるのは言うまでもないが、それは根管内にのみ細菌感染源が存在するという前提で言えることである。根管内が主原因であるが、もし根管以外に細菌感染源が存在していれば治癒しない。その一つに壊死セメント質が挙げられ、根管治療前にその存在をレントゲン読影できていれば難治性になると予測でき、患者さんに説明をして無用なトラブルを避けることができる。
 根管治療で治らないのは根尖孔外感染のせいだと言い逃れのような説明するDrがいるが、そんなあやふや用語でかたずけるのは不適切です。根尖孔外感染ではなく根尖孔外
感染部を示すことが重要であり、その主体が壊死セメント質です。ポイントはレントゲンでの壊死セメント質の読影と、その治療法である。
2012.1.1.kasazaki 

​根尖部の壊死セメント質が原因で、根管治療では治らない根尖病変があることを知り、対処法をマスターする。まずは根尖病変を治療するための適確な画像診断ができているだろうか?歯根と根管、根尖病変の位置や大きさ以外に、根尖部の壊死セメント質やセメント質肥大を読影しているだろうか?臨床に活かしているだろうか?壊死セメント質を知るための第一歩はデンタル・レントゲンでの画像診断でありCT画像では見えない。

 根尖病変の治療として根管治療や歯根端切除術を行う前に、デンタル・レントゲン写真で根尖病変内の歯根外形部に注目し、歯根肥大、壊死セメント質、セメント質剥離を画像診断しておくことは非常に重要である。根尖部に壊死セメント質があれば細菌感染源となって、根管治療の効果がなかったり治癒しない、また歯根端切除術が失敗する原因となる。

 難治性根尖性歯周炎の原因である感染歯質は、感染セメント質と感染象牙質に分類できる。特に感染セメント質はその悪化 状態から「壊死セメント質 necrotic cementum 」と表現してもよいと思われる。従来はX線写真から根尖性歯周炎と診断され、根管治療を行って効果のないものは根尖部の細菌バイオフィルムのせいにされてきたきらいがある。
 しかし、実際にエンド難治症例をオープンサージェリーとして見た場合、その根尖部はバイオフィルムどころではなく(否定はしないが)、セメント質は肥大し茶褐色で、表面は岩肌のごとくいびつに凸凹として汚く、歯質が軟化、ひび割れのような小亀裂が生じていたり、白色や黒色の石灰化物が沈着している症例も散見される(図5b、17b)。
 この壊死セメント質そのものが細菌感染培地であり、その場合は根管治療がどれほど適切であろうとも治癒へ向かわない。歯根が長期間にわたって根尖病巣の膿汁の中に浸かった状態にあると、反応性炎症としてセメント質は肥大し、次いで細菌感染・腐敗や壊死、剥離が生じると考えられる。(セメント質肥大→感染セメント質→壊死セメント質→セメント質剥離)
 難治性根尖性歯周炎の原因を考えるうえで、図2は「カイスのう蝕原因3つの輪」に似せて笠崎が「エンド不良原因の3つの輪」として分かり易く記したものである。根管治療で難治性になった場合には、根管内の細菌感染源以外に、歯根嚢胞そのものや根尖部の感染歯質に原因があることを示している。これらの3つの感染原因が取り除かれたところに根尖病変の治癒があると考えている。症例2(図5)、症例3(図6)はいずれも難治性根尖性歯周炎で、根管治療だけでは治癒困難と思われる壊死セメント質が感染原因と考えられた症例である。

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img_20220215-145712.jpg ←壊死セメント質:不整な表面像
<壊死セメント質の画像診断、X線写真で分かる?>
分かることが多い。術前のデンタルX線写真の読影で、根尖病巣内に、歯根肥大、歯根外形の粗造や凸凹や不明瞭などがあれば(上記の症例2.3)、根尖部の壊死セメント質を疑わなくてはならない。そして担当医は根管治療や歯根端切除術は難治性であることを認識する必要がある。その上で治療に入る前に患者さんに難治性のリスク理由を説明しておねばならない。根尖病変は根管治療だけで治癒するものではないことを術者は理解し、その理由を説明できねば患者トラブルになりかねない。壊死セメント質は感染歯質であり細菌感染源の培地である。
 根尖病変を治癒させるためにはセメント質の画像診断が必要: X線写真では根管数や根管形態、根尖病変の位置や大きさに目がいってしまうが、根尖病変内の歯根や歯根周囲にも注目しなければならない。歯根肥大、歯槽硬線、歯根膜空隙、歯根外形線、壊死セメント質、セメント質剥離である。以下、根尖部の壊死セメント質を読影するうえでの特徴を挙げてみた。         

                                                         デンタルダイヤモンド春特集号より 筆者論文 2013/3/2
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<壊死セメント質の画像診断>
左上2番、開業歯科から根管充填して2か月経ったがフィステル・排膿が消失せず歯根端切除術を依頼された症例です。根管充填は良好なのに症状が消失しない。この原因は何で今後どう対応すればいいのだろうか?この症例において根管治療不良の原因は壊死セメント質にあった。壊死セメント質を知らずして歯根端切除術の成功はない。そして根管治療の成功もない。(どうしてこのことが歯内療法の教科書に載ってないのか不思議だ)
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画像診断:左上2番、根尖病変(嚢胞)内の歯根に注目してほしい。根尖1/3の病変内の歯根外形線において、不定形、凸凹、いびつ、粗造、セメント質肥大、セメント象牙境線、石灰化物、を認める。根尖部だけでなく歯根近心側に縦の長い陰影を認め、これが根管だけが原因ではないことを示している。このような画像は壊死セメント質の存在を示し、感染源が根管外のこの部に存在するため、根尖病変を根管治療で治癒させるのは不可能である。細菌感染源は根管内ではなく壊死セメント質に存在する。
 

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右下5番、歯肉の腫脹とフィステルがある、担当医からは根管治療できず抜歯と言われたがネット検索して来院。肥大根、根管封鎖、壊死セメント質。歯根端切除術、感染歯質の治療を行う。 1893
      術前          歯根端切除術
img_20260530-182619.jpgimg_20260622-183348.jpgimg_20260622-183405.jpgimg_20260622-183433.jpgimg_20260622-183441.jpgimg_20260622-183452.jpgimg_20260622-183550.jpg
画像診断
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右上5番
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画像診断:右上5番、2年前に他院でMTA歯根端切除術をしたが疼痛・フィステル・排膿を認め再発し来院した。根尖部の近心側に肥大した壊死セメント質と思われる画像を認め、この部を含めた病変の陰影である。これが再発原因・感染源と思われた。
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<右下6番の壊死セメント質>
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        初診            歯根端切除術(2026.1)   術後1年を待っています。
画像診断:右下6番、遠心根尖部において歯根肥大と同部に一致しての根尖病変の陰影を認める。歯根肥大外形線はやや不明瞭で粗造。根管は閉鎖し根管治療は不可能なため、歯根端切除術、嚢胞摘出を行う。術中所見として肥大部の表面は凸凹、いびつ、ざらつき、軟化、全体的にやや褐色、一部白濁、セメント象牙境の微小亀裂、メチレンブルー染色を認め、象牙質も灰白色まだら模様で一部メチレン染色を認め、壊死セメント質と感染象牙質と判断した壊死セメント質を切除し皿状形成、SB逆根管充填した。感染歯質の治療を行った。
 この歯根の肥大部を単なるセメント質肥大と診断するか、壊死セメント質と診断するかで治療方針や予後も異なる。後者であれば細菌感染源となり再発する。だから壊死セメント質の診断は重要である。この症例に対して従来の歯根端切除術、つまり3mm根尖切除、マイクロスコープを使って3mm逆根管形成をしてMTA逆根管充填する術式で治癒するだろうか?治癒する訳がない。感染源が根管にないから。
 根尖病変は根管細菌感染から生じたものだが、その原因である根管を治せば必ず根尖病変が治癒するものではない。感染源は根管以外のセメント質に波及し細菌培地になっている。これが壊死セメント質である。2026.2.3
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右下6番
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画像診断:右下6番、遠心根の根尖1/3でセメント質が肥大し不定形、いびつに凸凹。壊死セメント質を推測させる。根管は閉鎖している。壊死セメント質が細菌感染源となり、根管治療を行っても治癒しないと思われる。肥大部に一致して病変の陰影を認める。
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右下1番、左下2番

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       初診           歯根端切除術
画像診断:約5年前に下顎前歯の根管治療を行いブリッジをセットした。6か月前から痛みと腫れ、フィステル・排膿を認めた。右下1番、左下2番の根尖1/2にセメント質肥大と一致しての病変の陰影を認める。術中所見として歯根に壊死セメント質を認めたため除去しSB歯根端切除術を行った。


症例48歳女性 【セメント質剥離、壊死セメント質2401
1か月前に左下1番の舌側歯肉に腫れと痛みがあり近歯科受診、抗生剤を処方され症状消失。しかし1週間前から唇側歯肉に腫れと舌側歯肉にフィステルが出現した。レントゲンで大きい根尖病変とセメント質剥離を認めた。根尖を斜め切除する歯根端切除術と壊死セメント質除去が必要と判断した。
2401高稻誓子 R8.07.22.jpg


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このことを約20年前に書いたが注目もされず私が初めてで、検索した限りでは他論文はないようだ。根尖病変の病因論として、根尖病変の治療として「エンド難症例の原因の一つに根尖部壊死セメント質があり、術前X線写真の読影には注意がする必要がある」と将来に必ず歯内療法の教科書に記載されると、確信している。歯内療法発展のために私の臨床と論理が役立てば幸いです。講演ご依頼ください。2012.1.

<壊死セメント質はどうしてできるのだろうか?>
大ざっぱな流れとして根尖病変は、根管感染→根尖膿瘍→歯根肉芽腫→歯根嚢胞と移行する。歯根が嚢胞内の膿汁に長期間に浸かっていると、反応性炎症としてセメント質肥大→感染セメント質→壊死セメント質→セメント象牙境の亀裂セメント質剥離が起きる、と説明できるだろう。
 
根尖病変において壊死セメント質や感染象牙質があれば根管治療では治せない。そして歯根端切除術においても難治療となったり治せない場合も多い。このことに気づいたDrはいるだろうか? 壊死セメント質がエンド不良や歯根端切除術失敗の原因であることを知る。レントゲン写真で壊死セメント質の有無をチェック、手術で確認できれば治療する。感染歯質を知らなければ理解しなければ、歯根端切除術の成功はない。症例がそれを証明している。
 歯根端切除術は根管だけを治療したのでは治らない(根尖部に壊死セメント質があれば)。それ故、歯根端切除術を外科的歯内療法、外科的根管治療、と言い換えるのは、私は適さないと思っている。2022.12.27.

<根尖部に壊死セメント質があった場合の治療法>
については術式に詳しく記載しました。

プロフィール

プロフィール画像
笠崎安則:略歴
愛媛県松山市出身.1976年東京歯科大学卒業.慶応大学病院歯科口腔外科(13年間). 立川病院歯科口腔外科部長(27年間). 慶応大学医学部歯科・口腔外科(非常勤講師). 現在: 国立スマイル歯科,斎藤歯科にて歯根端切除術と再植術に特化した専門治療をしています.
笠崎真悟:略歴
東京都国立市出身.2010年東京歯科大学卒業.慶応大学病院,国立栃木医療センター,日野市立病院,都立多摩北部医療センター歯科口腔外科. 現在:2021.10/1から国立スマイル歯科、歯根端切除術とインプラント、親知らずの専門病院を開設しました.

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